北海道や沖縄へ、みたいな遠出はできないけれど、私たちには予土線があるじゃないか!!
と、思いきって・・いや、いつものように予土線に乗って旅に出ました。
季節は夏。そうだ、この夏誕生した新観光列車に予土線を経由して乗ってみよう!!
2020年7月にデビューした新観光列車とパチリ!
旅のはじまりは、宇和島市です。同行するのは、大のうなぎ好きでわたしの職場の同僚、宮川裕美さんです。松山市からやってきました。うなぎも鉄道も楽しみたいというので、夏らしい旅を考えました。その結果、予土線に乗る前に天然うなぎを食べることにしました。うなぎといえば、四万十川!!とさんざん言ってきましたが、どっこい宇和島市津島町を流れる岩松川でもどんどんうなぎが獲れるんだそうです。(日本一の漁獲量だという調査もあるのです!)いただいたのは、津島町にある料理店「田むら」のうな重御膳。甘めのたれをくぐらせて、香ばしく焼き上げたうなぎ。そして、う巻きにうなきゅう。骨せんべいに肝吸いまで。これでもかといわんばかりのうなぎづくしに、宮川ちゃんも大満足。「これだけうなぎ食べたらもう元気もりもりになりますね~」。はるばる松山からこの天然うなぎをめざしてやってくるのは、どうやら宮川ちゃんだけではない様子。聞けば、県内外からここのうな重を食べたいと多くのツウがやってくるんだそうです。お目当てのうなぎは、期待を裏切ることなく脂がのって最高でした。ごちそうさまです!
「料理田むら」
愛媛県宇和島市津島町高田甲280-2
電話 0895-32-2023
営業時間
11〜14時・17〜21時
定休日 不定休
地元で愛されている郷土料理の老舗。岩松川で獲れた貴重な天然ウナギが食べられる。最近はテイクアウトもでき、宇和島名物鯛めしもおすすめだ。
まさにうなぎづくし。
この夏はこのメニューで乗り切りました!
爽快な風が流れる中、
換気十分のトロッコの旅を楽しむ。
うなぎのあとは、いよいよ予土線に乗ります!予土線の夏といえば、大自然を行くトロッコ列車ではないでしょうか。まずは車で江川崎駅に到着して、黄色いボディのトロッコ列車に飛び乗りました。トロッコ車両に乗れるのは、江川崎~土佐大正間です。かつては北海道で貨車として活用していたトロッコは板バネの木造で、ガタガタゴトゴトとにぎやかな音を立てて出発します。窓のない開放的なトロッコは、トンネルに入ると轟音と爆風が体全身にびりびり感じます。トンネルを出るとじりじりと太陽が照りつけ、見下ろす川にはたくさんの人たちが水遊びをしていました。泳ぐ人や釣り人など、夏は川遊びの人びとがトロッコに向かって手を振ってくれます。宮川ちゃんの目に飛び込んできたのは、川に腰まで浸かって手を振ってくれる地元のおじちゃんたちでした。「めっちゃ気持ちよさそう。冷たい川にお風呂みたいに浸かってるなんて、超うらやましい!!」とのことです。私も川では泳ぐというより、ただひたすら浸かってるだけのような気がしてきました。夏の暑い日に大自然の水風呂なんて、たしかにぜいたくな環境ですね。
土佐昭和駅近くの定番ポイント
「三島の沈下橋」を眼下に…
江川崎駅に戻り、車に乗り換えて長生(ながおい)沈下橋を渡り、四万十川で一休み。ズボンをまくって足だけ川に浸かりながら鮎の塩焼きをおやつにしました。ほどよく涼んだところで、窪川駅までドライブしました。四万十川に沿って穏やかな緑色の景色が気持ちいいルートです。うなぎと並ぶほど温泉好きの宮川ちゃん、窪川といえば松葉川温泉にも立ち寄らねば。山道を行きながら途中には高知県最古と言われている一斗俵沈下橋もあります。観光名所の一つとしても有名なこちらの沈下橋は、古さも感じさせますが、なんと言ってもその周辺の静けさたるや。橋の上にごろんと寝そべると、昼間太陽に温められたコンクリートの橋のぬくもりがじんわり背中に伝わってきます。聞こえてくるのはヒグラシの鳴く音のみ。同じ四万十川なのに、そこは水の流れが緩やかで、水面は鏡のようにも平らかに見えます。トロッコ列車から眺めた川のようすとはすっかり違っていました。川はいろいろな表情を持っていて、まさにそこは時が止まっているかのような静寂に包まれた異空間でした。空はだんだんと暮れていき、風がそよそよと吹き始めました。里山の夕暮れを満喫し、渓谷を一望できる露天風呂で緑に包まれながら、これまた心も体もゆったりとほぐされていったのです。「なんという非日常感!!とってもしあわせな気分です」と宮川ちゃんも満足げでした。
道の駅「よって西土佐」で手に入れた
鮎の塩焼きが四万十川に戻ってきた?
川原で川遊びをする。
対岸の高台には予土線が走っている。
しかし、初日の旅はまだまだ終わりではありません。宿に入る前に、窪川の名物を味わっていただかなくては!そう、窪川のソウルフードこと「満州軒」のジャンメンです。ジャンメンとは、卵、ニラ、唐辛子、ホルモン入りのとろみとうまみたっぷりのスープが特徴の麺料理です。ちょうど客足が落ち着き始めた午後8時、わたしたちは入店に成功。ほどなく出てきた、ジャンメンに「おお!なんというボリューム!」と宮川ちゃんは驚いていましたが、それとは裏腹に箸はどんどん進みます。あっつあつのジャンメンに、さっき温泉でさっぱり汗を流したにもかかわらず、私たちは額に大粒の汗をかきながら一気にぺろりと平らげてしまったのです。おそるべし、ジャンメン!!「満州軒」は焼肉メニューもあり、焼肉メインのはずなのですが、常連さんや地元の人たちはシメにこのジャンメンを必ず注文するんだそうです。ジャンメンは、どんなに満腹でも一杯ぺろっと食べきってしまう不思議な魔力を持った一品なのです。
「満州軒」
〒786-0007
高知県高岡郡四万十町古市町1-19
電話 0880-22-0019
営業時間 11:00〜21:30
(オーダーストップ21:00)
定休日
日曜日
窪川の町で営んでいる庶民派焼肉店。この味を求めて通い続ける常連は数知れず。鉄板で頂くホルモンと野菜と一緒に頼むとさらにハマッテしまうという。窪川駅から徒歩10分。
とはいっても、宿はすぐそこ。窪川駅から歩いて5分の「美馬旅館」です。創業明治24年の老舗旅館です。玄関口には行灯がともっていて、なんともはや木造の日本家屋は風情があります。宿の女将は、華奢な女性でした。とてもてきぱきと動いていらして、冷たいお茶や落雁でもてなしてくれました。私たちが泊まる和室にはぱりっと糊のきいた真っ白なお布団が敷かれ、なんだか安らぎを感じました。私たちはさっそく浴衣に身を包み、大小2つあるというヒノキ風呂に直行しました。ユズの香りが広がる浴槽に浸かり、本日2度目の風呂も最高でした。さて就寝しようと思っていたのですが、宿の趣についつい探検したくなり、宿の中をぐるりと歩くと、ふと林芙美子の書が目にとまりました。この宿に泊まった林芙美子は「あたたかい、何と優しい田舎があるものだろうかと、私は思いがけない町に来たことが嬉しかった。何の考えもなく、こんな鄙びたところへこれたのがうれしい」と書き綴っていました。なるほど、その情緒はこの宿にまだ色濃く残っているような気がします。鄙びているという言葉すら、ポジティブに感じるそんな趣を感じました。
そして、翌朝。部屋に朝日が差し込むと、すがすがしいことこの上なし。夏の日差しにもかかわらず、朝の光はガラスとレースのカーテンをくぐると畳の部屋を優しく包んでいました。私たちは目覚めのコーヒーを飲みに、宿の近所にある喫茶店に繰り出すことにしました。宿から歩いて1分、ツタに覆われた純喫茶「淳」に到着です。扉をくぐると、コーヒー豆の焙煎された香り、そしてノスタルジックな店内にすっかりタイムスリップしたかのような空間です。宮川ちゃんは、店の一番人気ウインナーコーヒーを、わたしはホットコーヒーとロマン・プリンを注文しました。ウインナーコーヒーには、カラフルなチョコチップがのっかっています。ロマン・プリンは、しっとりとした食感の理想のプリンでした。会計のときにはもちろん店のマッチをいただきましたが、これまたノスタルジックなデザインで。旅先で思いがけず出会った喫茶店とマッチに朝からすでに気分が上がっていました。
「美馬旅館」
〒786-0005 高知県高岡郡四万十町本町3-4
電話 0880-22-1101 営業時間 16時〜翌10時
料金 1泊2食付き9,720円~
創業は明治24年という味わいある木造建築の宿。四国霊場八十八か所霊場岩本寺の近くにあり、お遍路宿泊プランもある。2018年には四万十ヒノキをふんだんに使った「はなれ 木のホテル」も開館した。
時代の夜明けのものがたりは二両編成。
元々は特急用の車両だった。
おひとり様用座席もあって、
開放的な車内とコロナ対策は万全だ。
この日は、まず窪川駅から高知駅まで2000系特急列車「あしずり」に乗ります。この2000系特急は、なんといっても四国を代表する特急車両で、30年四国の鉄路を支え続けている名車であります。山深い曲がりくねった四国の鉄道において、高速化を実現させた「振り子式気動車」なのです。わたしたちは先頭車両の一番前の席に座って、そのくねくねした線路をまるで振り子に揺られるかのように走る列車を楽しみました。宮川ちゃんは「この景色は、ちょっとしたジェットコースターみたいな感覚ですね」とはしゃいでいました。
到着した高知駅で、まもなくすると入線してきました!デビュー間もないJR四国3番目の観光列車「志国土佐 時代(とき)の夜明けのものがたり」です。キハ185系という名車両でなんともシックな色合いです。濃い茶色と青と白、土佐の英雄、坂本龍馬も描かれています。と、そこへ観光列車と同時に駅に現れたのは、鉄道カメラマンの坪内さんことどつぼさんです。ここからは、旅の様子を撮影するため観光列車を追いかけて同行してくれました。いつものスーツ姿で沿線を神出鬼没しながら追いかけてくれるそうです。
(その写真がこちら↓)。
猛暑の中、車窓に現るどつぼさんに
車内は盛り上がった。
乗車前には、検温と消毒をします。いざ乗り込むと、車内はきらびやかな装飾が施され、海と宇宙を感じさせるデザインです。さらに、食事もおしゃれ。鰹に四万十ポーク、高知自慢の食材を洋風にアレンジした極上の品々が詰め込まれた超豪華なラインナップ。目に美し、舌に旨し。列車は高知城や市内を抜けて、仁淀川を渡り、そして須崎市に入ると目の前にデーンと太平洋が広がりました。車窓は青一色。雄大な太平洋を望むと列車は徐行します。車内から「わあ」と声が上がるほど、広々と開放的な景色です。「海の向こうはアメリカぜよ!」とつい龍馬気分になってしまいます。予土線で四万十川を、そしてこの観光列車では太平洋を、夏真っ盛りの緑豊かな青々としたエネルギーを感じました。そうそう、車内のアテンダントさんの沿線アナウンスが絶妙で、高知のはりまや橋について案内をするときは「よさこい節」をマイクで唄ってくれました。すてきなサプライズに乗客全員は大喝采。車内は、ほっこり温かい雰囲気に包まれました。おかげで乗り合わせた見ず知らずのお客さん同士すっかり打ち解け、会話は弾み、車窓にときどき現れるどつぼさんを見つけては手を振ったりと笑顔の絶えない観光列車でのひとときとなりました。
要予約で食べられる
皿鉢風にアレンジされた創作料理が堪能できる。
最大のハイライト、険しい崖に設置された第二領地橋梁を渡る。(土佐新荘-安和)
「志国土佐時代の夜明けのものがたり」
四国ものがたり列車の第三弾として7月から高知~窪川間で週末を中心に一往復しているおもてなし観光列車。普通料金の他に特急グリーン指定が必要で、地元の食材を使い至高凝らした食事メニューも好評だ。
およそ2時間かけて高知駅から窪川駅に到着し、どつぼさんと合流し、四国霊場37番札所岩本寺の隣にある「まるい青果市場」に向かいました。青果店ならではの名物かき氷ということで、観光列車で乗り合わせた女性たちに教えてもらったのです。なんとそこは、野菜や果物をそのまま凍らせているというぜいたくなかき氷が味わえるという名店でした。宮川ちゃんは白桃、わたしはメロン、どつぼさんはイチゴミルクをいただきました。ただ、一番気になっていたのはキュウリのかき氷、、、次回挑戦することにします。すっかり窪川を満喫した宮川ちゃんは、ちゃんと岩本寺にもお参りをして旅の報告をしていました。
まるい青果市場はこの通りお寺のすぐそばにある。ひと休み~
しゃりしゃりのかき氷。
果実のジューシーさをそのまま味わえちゃう。
夕方になり、日も暮れ始めたころ車で宇和島まで帰りつきました。晩ご飯は菊屋のちゃんぽんです。あふれんばかりの野菜が「密」集した宇和島のソウルフードを食べながら、いよいよ旅も終わりです。宮川ちゃんは「1泊2日とは思えないほど、食と自然を味わう濃「密」な旅になりましたね」と大喜びでした。いわゆる世間の「3密」とはほど遠い予土線の環境に感謝しながら、夏の楽しい思い出が一つ増えたのであります。