予土線に乗って旅にでた vol.6

予土線を経由して、新観光列車に乗ってみた!

旅人 宮川裕美

円谷プロ

「予土線を眺めながら、五右衛門風呂を楽しめる宿がある。」
その魅力的な情報をもとに、今回の旅を計画してみました。
幸か不幸か、あまり密とは関係なく旅ができるのが予土線の醍醐味。
ならば、1人で楽しめる予土線旅を提案しようとプランを練りました。
宇和島駅を午前9時33分に出発。季節はちょうど新米の季節。
予土線沿線は米どころが多く、早いところではお盆の頃には稲刈りが始まっているのです。
いずれにせよ、昼ごはんは務田駅で下車して、道の駅までてくてく歩きます。

この時期は、道の駅自慢の新米がずらりと並ぶ。

風を感じながら歩くこと10分。道の駅みまに到着しました。ずらり並んでおります、つやつやのお米たちで作ったお弁当たち。お、塩むすびもあるじゃないか。売り場を見れば、ところ狭しと積み上げられた米袋の数々。すると、「あのー店員さんですか」と声をかけられてしまいました。どうやら新居浜市から新米を買いにわざわざやってきたというのです。「毎年、ここでお米を買うんです。家族で1年間食べる分!!」と、熱烈なファンです。道の駅では、生産者の名前をそれぞれに書いてありますので、お客さんによっては決まった生産者さんのお米を選ぶそうです。そのお客さんは、「おすすめのお米はどなたのでしょうか」と聞いてこられたのですが、その究極の質問に私はとっさに「みなさん丹精込めて作っていますから、どれもおいしいです」と即答したのです。店員さんではないけれど、この地で米作りをしている農家さんたちは、男気あふれる熱い情熱を持った人たちばかりで『みま米』ブランドに誇りを持っているのです。

おにぎり弁当をリュックに入れ、列車の時間まで道の駅隣接の「畦地梅太郎記念美術館」で版画を楽しむことにしました。宇和島市三間町出身の版画家、畦地梅太郎氏の作品を常設展示しています。制作風景の映像や作品の版木も展示されており、じっくりと畦地ワールドを楽しむことができました。個人的には、畦地作品に良く登場する雷鳥と山男のつかず離れずの山でのひとときを描いたものが好きですが、いつ見ても畦地氏が描く山々やふるさとの景色に心を惹きつけられます。デザインとしても最強にかっこいい作品ばかりです。

道の駅で販売している
お弁当のお米はすべて「みま米」。

「道の駅みま」

愛媛県宇和島市三間町務田180-1
電話 0895-58-1122
営業時間 午前9時~午後6時まで

JR務田駅から徒歩10分ほどにある道の駅で、朝採れの新鮮な野菜や果物の他、四万十圏域の特産品なども販売している。中でも農家がこだわり抜いて栽培した「みま米」は、県内外から多くの人がわざわざ買い求めにやってくるほどの人気ぶり。炊きたてが食べたいという人には、「かまど」を貸し出してくれるサービスもあり(体験料600円)。

「畦地梅太郎記念美術館・井関邦三郎記念館」

道の駅みまに隣接(入館料 おとな300円)
電話 0895-58-1133  営業時間 午前9時~午後5時(火曜定休)

道の駅みまに隣接しており、宇和島市三間町出身の版画家・畦地梅太郎の作品と、農機具の開発者で「井関農機」の生みの親・井関邦三郎の功績や農機具を展示している。豊かな米どころや自然豊かな山々が生み出した郷土の偉人として地域の人たちに親しまれたことがわかる。

実りゆく秋の気配を感じながら
トコトコと走りゆく列車(半家-十川)

山小屋風の木造駅舎が特徴。
鉄道、バス、タクシーなど交通の拠点になっている。

「国鉄」は、もうすでに「JR」になっているものの
元々書かれていたまま新調した。

午後12時33分。務田駅から再び予土線に乗り込みました。車内のロングシートに腰掛けて、のんびりとおにぎりを食べました。窓からは心地よい風が入って、キイキイ、ガタンガタンと列車が線路を行く音を楽しめます。すっかり稲刈りを終えた田んぼを通り越し、車窓には四万十川。1時間半ほどで、土佐大正駅に到着しました。予土線沿線は、米どころを過ぎると栗の産地が続いており、なんといっても栗焼酎は外せません。下戸の私ですが、唯一飲みたいと思うのが栗焼酎です。飲み口がすっきりしていて、それでいてほんのりと栗の芳香が口の中に広がるという感じですか。いやあ、ツウのように書いてしまいましたが、一口飲みたいなと思ってしまうんです。駅から徒歩圏内に、その栗焼酎「ダバダ火振」で知られる無手無冠さんがあります。今回は、その近くにある『四万十川焼酎銀行』に立ち寄りました。

焼酎を預けて、利息が付いてくるという「預貯酎」ができるユニークな銀行です。本物の金庫で保管することで、熟成した味わいが楽しめるとか。その「預貯酎」できる栗焼酎こそがお目当てで、ここでしか販売されていないんです。その名も「馬之助栗90%」。年間1000リットルのみという貴重な焼酎です。預けるとまた深みを増すこと間違いなしですが、その場でお買い上げもできました。今晩飲もう・・。

駅前に広がるのは、
時が止まったようなどこか懐かしい町並み。

かつて地元で愛されてきた酒瓶ラベルがそのままずらり。
これだけで博物館級。

お願いすれば、栗焼酎が試飲できます。
「預ける」とまた深みを増した味わいになる。

「四万十川焼酎銀行」

高知県高岡郡四万十町大正452
電話 0880-27-0316
営業時間 午前8時~午後5時
(無手無冠酒造・焼酎銀行見学は1か月前に要予約)

地元銀行をそのまま利用して、株式会社無手無冠が製造する栗焼酎を預けることができる。金庫室で大切に預かったのち、熟成されたものが手元に届くという仕組み。本物の銀行さながらの通帳も発行してくれる。

焼酎銀行の前に、歩いて30分ほどで行ける「四万十ヤイロチョウの森ネイチャーセンター」にも足を運びました。ヤイロチョウは、日本の国鳥でもあり、高知県鳥でもある美しい渡り鳥なのです。野鳥は昆虫以上に出会える確率が少ないような気がしていることもあり、まだ飛び立つ前のヤイロチョウに出会えないかなと、密かに期待しながら歩いたのですが、そう甘くはなく・・。しかし、このネイチャーセンターでは、ヤイロチョウの写真や剥製のみならず、貴重な子育てのようすを映像で見ることができます。、大量のミミズを加えてヒナにえさをやったり、ヒナを守ろうとマムシと闘ったり、その姿の美しさ以上にたくましさが胸を打ちます。これからの季節は南へと向かって行く渡り鳥の切なさもあいまって、遠くから声援を送りたくなってしまいました。

入館すると、簡単な解説をしてくれる。
貴重な写真の数々が張り巡らされている。

「四万十ヤイロチョウの森ネイチャーセンター」

高知県高岡郡四万十町大正31-1(轟公園内)
電話 050-8800-2816
開館時間 午前10時~午後3時(水・木曜定休)
入館料 600円

高知県および四万十町の鳥に指定されている渡り鳥・ヤイロチョウについて学ぶことができる。四万十川流域の豊かな自然の中で子育てをするヤイロチョウの貴重な映像や写真のみならず、野鳥の標本コレクションもある。耳を澄ませば、ヤイロチョウの鳴き声が近くに聞こえることも。

駅スタンプならぬ入館スタンプ。
四万十の野生動物が愛らしく描かれている。

土佐大正駅からはバスに乗って移動します。いよいよ本題の五右衛門風呂を目指して、十川駅へ向かいました。午後5時すぎ、十川駅から歩いて8分、今夜のお宿「かっぱバックパッカーズ」に到着しました。ついに五右衛門風呂だ!と到着早々、「列車の通過時間に合わせて五右衛門風呂に入りたいのですが!!!」と伝えましたら、宿のご主人は「はい、了解いたしました」と1時間ほどお待ちくださいというものですから、夕飯の支度をしようと宿の近くのスーパー彦市と東精肉店で食料を買いだしし、いそいそと着替えて準備をしました。

スーパー彦市は、宿から歩いて1分。
お総菜も充実しているが自炊したくなる品揃え。

コロッケの旅でもお世話になった東精肉店。
牛肉、豚肉、鶏肉全部おいしそう。

この日は、牛バラ肉300グラムを買いました!
袋のデザインも大好き。

国道381号線沿いにある看板が
入り口の目印。

宿主の村岡さんが必死に薪をくべる横で、
ブランコを見つけてはしゃいでしまった。

やっぱり薪で湧かす風呂は良い。
念願の五右衛門風呂は至福のひととき。

台所は自炊できるよう何でもそろっている。
古民家らしいレトロな食器も味わい深い。

夕食のメインは、ゴボウと牛肉の炒め物。
そして、このあとそうめんをゆでていただく。

(なんと水着着用でもいいんですって!すっぽんぽんで入っても大丈夫だそうです)宿には西日が差し込んできた午後6時すぎ。いよいよ湯に浸かります・・ぷはー。なんて良い湯加減。柔らかくてあったかい、薪で湧かした風呂はひと味ちがう・・・。とそこへ、パ――!!と汽笛が鳴りました。列車がやってきました!!!なんという最高のトレインビュー!!運転士さんも粋なことをしてくれます。宿では、私と同じようなリクエストが多いということで、ご主人は慣れたものです。そして、30分後には、反対方向から列車が来ます。上りと下り、なんと一晩で二度も、予土線五右衛門風呂を味わえました。予土線よ、もっと頻繁に列車を走らせておくれ、と言いたくなるほど、情緒があるぜいたくなひとときでした。日が暮れると、夜汽車も期待しましたが、ダイヤ改正で十川駅を通過するのは、朝までお預け。五右衛門風呂と予土線を狙うならば、翌、早朝7時台に2回チャンスがあるのみです。 ご主人のご厚意で、翌朝も薪をくべていただき、朝風呂を決行することができました。いやあ、何度も言いますが、薪をくべた風呂は温かみが違います。ひとえに湯を温めてくれたご主人のおもてなしです。いわゆる通学時間の通学列車だったかもしれませんが、朝からなんともぜいたくなひとときを味わいました。

すっかり日も暮れましたが、
列車の運転席からも見えちゃうほどのこの距離感たるや。

私が泊まったのは「よどせんルーム」という部屋で、ご主人が手作りした木製のジオラマがありました。壁には、予土線の記念イベントのポスターや写真が飾られていて、窓からはもちろん予土線が見えます。民家を改装しているので、ちょっと親戚のうちに里帰りしたようなアットホームな空間で、台所で自炊できるのもうれしかったです。もともとあったというちょっと昭和な食器や充実した調理器具で、夜も朝も昼の分まで、しめて3食分作りました。たまたま貸し切りということだったこともあり、のんびりと料理して食事して、念願の五右衛門風呂に入って、もう言うことなしの一夜でした。ご主人の心遣いにも大感謝です。

今回のお宿は「よどせんルーム」。
実は、どのお部屋からも予土線トレインビュー。

ベランダから見える予土線の線路と桜の木。
春は、桜と予土線が楽しめる。

「かっぱバックパッカーズ」

高知県高岡郡四万十町十川223-1(十川駅から徒歩8分)
電話 090-5278-4402  ホームページ https://kappa-bps.com/
チェックイン 午後4時~午後9時  チェックアウト 午後10時
宿泊料金 男女混合ドミトリー¥2,800(1名1泊)
     個室貸切¥3,800(1名1泊)
※駐車場あり。

十川駅から徒歩8分。国道381号線沿いを歩き、線路側にある階段を上っていくと一軒の古民家がある。一軒家なので、かっぱを描いた共有スペースや広い台所が1階にあり、ベッドルームは2階。予土線のすぐそばにあるため、滞在中は列車の通過時間になるとそわそわしてしまう。レンタサイクルや予土線をじっくり味わう長期滞在者やリピーターも多い。

平成20年に閉校した打井川小学校を改装したにぎやかな外観

宿を出て、午前10時57分。十川駅から打井川駅を目指しました。そう、次なる目的地は、海洋堂ホビー館とかっぱ館です。打井川駅からは5キロほど離れていますが、なんと事前に連絡をしておくと、送迎してくれるのです。(※送迎は月~土のみ、日曜と祝日はバスがあります)。海洋堂ホビー館では、「海洋堂ウルトラマンフィギュア展」が開催しておりました。ウルトラQ、ウルトラマン、ウルトラセブン・・・ここまでしか見たことはありませんが、会場は懐かしの名場面がフィギュアで再現されていたり、なんと人間サイズのウルトラマンと怪獣がいたり、撮影も自由にできたり。海洋堂が1980年からずっとウルトラマンのフィギュアを手がけているということで、その貴重な品々に包まれてウルトラワールドを堪能しました。この展示期間と合わせて、なんと予土線に「ウルトラトレイン号」も走っているんです。7月の出発式には、ウルトラマンがM78星雲から駆けつけてくれたり、ホビー館ではウルトラマントリガーショーが行われたりしました。まさに予土線と奇跡のコラボ期間なのです。

今にも動き出しそうなカネゴンと記念撮影。

ウルトラマンシリーズの名場面を再現した
フィギュアやジオラマの数々。

かっぱ館の入り口はかっぱだらけ。
さて、私はどこでしょう。

「海洋堂ホビー館四万十」

高知県高岡郡四万十町打井川1458-1
電話 0880-29-3355(※送迎連絡は、平日と土曜のみ)
営業時間 午前10時~午後6時(火曜定休)
入館料 高校生以上800円

大阪市に拠点を置く大手フィギュアメーカー「海洋堂」が手がけた博物館級の展示が並ぶ。へんぴなところにありながら、一流の作家たちが生み出したフィギュアの数々は、年齢を問わず楽しめるため、全国各地からファンが訪れている。企画展示には、時代を飾るアニメや特撮の展示が行われており、現在は海洋堂が1980年から手がけているというウルトラマンシリーズの展示会が行われている(2022年5月まで)。

「海洋堂かっぱ館」

高知県高岡郡四万十町打井川685-1
電話 0880-29-3678
営業時間 午前10時~午後6時(火曜定休)
入館料 高校生以上500円

海洋堂の宮脇修館長と深い縁のある馬之助神社のすぐそばにある展示館。四万十の杉丸太や赤土で作られたかっぱたちがところ狭しと並んでおり、世界中から集まった造形作品が600点あまり展示されている。そばを流れる打井川でうっかり遊んでいるとかっぱに出会えるかも。

車窓に広がる四万十川の一コマ。
水面の輝きは時間帯によってさまざま。

©円谷プロ

これが「ウルトラトレイン号」だ!
赤いボディが予土線の緑に映えるぜ!

そのあと、かっぱ館にも立ち寄って打井川駅まで送ってもらいました。午後5時58分。なんとなんとやってきたのは、その「ウルトラトレイン号」だったのです。ウルトラマンの世界を一日中満喫した私には、すばらしいタイミング!!宇和島に向かうにつれ、窓の外は段々と暗くなっていきました。乗客はほとんどなく、私はすっかり眠りこけてしまったようです。ウルトラマンと巨大なかっぱが水しぶきをあげて闘っているのを私は列車の窓から見ているという夢を見ました。列車を突き破り、私も巨大化して闘いに混ざろうとしたその時、パッチリと目が覚め、小さなワンマン夜汽車は宇和島駅に到着し、私は無事に旅を終えました。予土線はウルトラマンもかっぱもいる(ヤイロチョウもいる)。というわけで、ちっともさみしさを感じない1人旅でした。

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