予土線に乗って旅にでた vol.6

予土線を経由して、新観光列車に乗ってみた!

旅人 宮川裕美

とある冬の日。
せっかくだから近永駅で買ったSきっぷを使ってみようと、
私は日帰り鉄道旅を計画しました。
予土線を経由して、予讃線で松山駅まで、
気ままに1人旅へ出発です。

近永駅から「ウルトラマン」に乗って、まずは宇和島駅にシュワッチ!!

近永駅を午前9時に出発。ウルトラマンラッピング列車に揺られて40分。宇和島駅に到着して、特急宇和海に乗り換えます。2両編成の宇和海アンパンマン号に乗車しました。新型コロナの影響で、列車の中は数人程度しかいませんでしたが、私の席の通路向かいに途中の駅から小さな女の子連れの老夫婦が乗車してきました。女の子はピンク色のリュックを背負っていて、老夫婦はかいがいしく世話を焼いています。「ほら、お城が見えるよ。きれいね」と車窓から見える大洲城を愛でたり、田んぼや町を指さしたりと、そこにはなんとも微笑ましい家族のひとときがありました。

ウルトラマンに次いで特急は、アンパンマンでそれゆけ松山へ!

ろくに打ち返せないくせに
バッターボックスに入ると
テンションが上がる私。

11時20分に松山駅に到着。松山駅といえば、昭和の遺産「駅前スタジアム」がありました。松山駅周辺のネオンの中でひときわ目立つ存在でしたが、松山駅高架工事に先立ち、駅前スタジアムは去年(2021年)3月閉鎖となったのです。またひとつ松山駅のシンボリックな場所が失われ、やはりそこにあったものがなくなった事実を目の当たりにしてがっかりしてしまいました。駅前スタジアムの最大の魅力は、なんといってもバッティングセンターで、木偶の坊のような木彫りの人形から繰り出される剛速球を金属バットでカキーンと打ち返すのがなんとも気持ちがよかったこと!時が止まったかのようなあのバッティングセンターはもうありません。あの光るバッティング小僧のネオンもありませんが、昭和の古き良き学生のたまり場のようなちょっぴりやんちゃな雰囲気は、私の記憶の中にあるのです。

2020年7月に撮影した松山駅前の名所「駅前スタジアム」。
このネオンが好きでした。

駅構内にあるデリー。
ここを素通りできなくて何度も通っています!

こちらがコロッケカレー。まんまるのコロッケは
スプーンを入れるととろりとろけます。

そんなことをぼんやり考えていたところ、ぷうんと鼻をくすぐるスパイシーな香り。松山駅に降りたら最後、必ず立ち寄らずにはいられない。そう、デリーのカレーです。私はデリーも駅前スタジアム同様、松山駅の昭和のシンボル、いや青春時代の空間のようなあの感じに惹かれて、どうしてもデリーのカレーが食べたくなるんです。いちおしは、コロッケカレー。カレーのトッピングはトンカツに、エビフライと定番を始めいろいろあるのですが、すべて注文を受けてから店員さんが揚げてくれますので、いつだってアチアチが味わえます。中でもコロッケは、いわゆるホワイトソースのようななめらかでとろっとしたクリームコロッケですので、それはもうものすごくアチアチで出てきます。らっきょうも福神漬けも絶品で自由にのっけて食べられるのですが、今は新型コロナの影響でお皿にちょこっと一人分だけ出されていました。もっとらっきょうが食べたいな、なんて思っていたら店員さんと目が合ってしまい、からになった私のらっきょう皿を見て「おかわりできますよ」と優しい一言。1杯のスプーンにのせる私の理想の割合は、ごはん:カレールー:らっきょう=2:1:2なのであります。注文してから(トッピングの揚げ物にもよりますが)基本的に座ってすぐに提供してくれることもあり、店には休憩時間とおぼしき駅のメンテナンスのおじさまやビジネスマンなどがやってきます。もう松山のソウルフードの一つといっても過言ではないでしょう。いよてつ高島屋近くのまつちかタウンにもデリーはあります。こちらのデリーも昭和の雰囲気そのままで大好きです。(実は初めて食べたデリーのカレーはまつちかタウンの方でした。)

この顔、
多くを語らずともカレーのおいしさ伝わりますか。

「カレーショップデリー松山店」

愛媛県松山市南江戸1-14-1
電話 089-945-9852
営業時間 午前11時~午後9時

JR松山駅構内にあるカレー店。カウンターのみの小さな店ながら、ひっきりなしに客が入れ替わる人気ぶり。日替わりのおすすめカレーがあり、30円程度お安くなるので店内に貼り出しているチラシをチェック。ジャンボサイズの野菜がごろっと入った野菜カレーや季節限定のカキフライのトッピングなど、何回も通いたくなるメニューがずらり。

源泉を無料で開放していますので、
地元の人たちが天然温泉を汲みにやってきます。

さておなかも満たされたところで、時計を見てみるとわずかに松山到着から30分しかたっていないじゃないですか。いやあ、デリーはやっぱり最高のファストフードだなと感心しながら、駅周辺を見回してみますと目に飛び込むのは「KISUKE」の文字。うん、温泉に行こう!!「喜助の湯」はれっきとした天然温泉なのです。入浴料は650円。炭酸湯もサウナもあるんです。かねてより炭酸湯のしゅわしゅわした湯につかるのは、極上の時間と思っておりますゆえ、大分の七里田温泉の炭酸湯を訪れたときだって1時間たっぷりと浸かっていましたっけ。ええい、ふやけてしまってもいい、あのしゅわしゅわがたまらないのです。炭酸湯は温度が低めなので、わりかし長い間浸かれます。案の定、常連とおぼしきおばさま方は足を伸ばして湯に浸かったまま不動状態。私もその中の一人になって、まるで禅修行のように静かに時を過ごしました。肌に無数の気泡がくっついて、まるで炭酸グラスの中にいるようなくすぐったい感覚は自宅では絶対に体験できません。激しくおすすめします。

喜助の湯は、地域密着ということもあり、サウナに今治の菊間瓦や内子のじゃばらを使っていました。プロモーションビデオには、ご当地プロレス団体「愛媛プロレス」が登場します。鍛え抜かれた肉体美をもってPR。(何を隠そう、私は愛媛プロレスの大ファン。ご当地愛媛を大切に思いレスラーたちの愛があふれるPVでした!)レスラーたちを癒やすのは、この温泉、このサウナ!!薬草湯も壺湯も、そして歩行浴もジェット湯もたっぷり味わいつくし、気がつけば2時間も過ごしていました。日常生活では、真っ裸で2時間も過ごすことなんてないな~、湯上がりぽっかぽかの私。汗が噴き出していました。喉も渇いたなあ~。すると休憩処に「オロポ」の文字。??オロポとはなんぞや??気になる・・店員さんに聞けば「オロナミンCとポカリスエットを半々に割った飲み物です。湯上がりにぴったりですよ」とのこと。汗で流れたミネラルやビタミンを補給しましょうということでさっそく注文。ボトル入りも販売していたので、そちらをいただきました。ぐびぐびっと飲みました。想像を裏切らないしゅわっとおいしいコラボ飲料。「くう~」とアルコールの飲めない私が思わず声を上げると、さっきまで炭酸湯で同席していたおばさま方もちょうど上がってきたところ。思わず目が合ってクスッと笑われてしまいました。あ~いい汗かいたなあ。

「伊予の湯治場 喜助の湯 JR松山駅前店」

愛媛県松山市宮田町4   電話 089-998-3300
開館時間 午前10時~翌午前2時
(午前5時~10時までは朝風呂サービスタイム※月曜を除く)

道後温泉郷の最深部1700メートルから湧き出す源泉を楽しめる天然温泉。源泉掛け流しの湯やサウナなど14種類を満喫できる。また薬草や炭を使った5種類の岩盤浴や深夜利用もできるので、ついうっかり列車を何本も逃してしまいそうなほど長時間リラックスしちゃうことも。食事処もあるため、疲れたからだを癒やす旅には欠かせない立ち寄りスポット。

なんと源泉を持ち帰るための容器が
自販機で買えちゃいます。

風呂上がりには「オロポ」。
ボトル入りは580円でした。

路面電車の乗り場も見える開放的な店構え。

汗がひいてきたので、喜助の湯をあとにして、お次はコーヒーブレイク。喜助の湯のそば、駅への地下道の入り口近くにあるutaco drip(ウタコドリップ)に立ち寄りました。こちらは扉のないオープンな空間で、マスターこだわりの本格コーヒーを一杯ずつ丁寧に淹れてくれるのです。何にしようかな~とメニューを見ながらふと目にとまったのは「LONG BLACK(ロング・ブラック)」。いったいどんなコーヒーですか?とマスターに尋ねると、「エスプレッソのお湯割りです」とのこと。マスターは、スムーズな手つきでパウダー状のコーヒー豆でエスプレッソを抽出しました。そして、カップにお湯を注ぎ、抽出したばかりのエスプレッソをそこへ投入。アメリカンコーヒーに似て非なるようで、ロング・ブラックはオーストラリアでの飲み方だとか。エスプレッソにお湯を注ぐアメリカンコーヒーよりも香りや味が強く残っていて、酸味もありおいしくいただきました。開放的な空間ですので、店内でもテイクアウトでもコーヒーを味わうことができます。至極の一杯をいただきました。

こちら淹れたてのロング・ブラック。
焼き菓子にもめちゃ合う~。

「utaco drip(ウタコ・ドリップ)」

愛媛県松山市大手町2-9-20
開館時間 午前11時~午後8時(※豆がなくなり次第終了)

手焼きでじっくりと深煎りしたこだわりのコーヒー豆で、一杯ずつていねいにドリップしてくれるコーヒースタンド。立ち飲みとテイクアウトのみだが、おいしい焼き菓子も販売されていて上質なおやつと深みのあるコーヒーでちょっとブレイクしたいときにおすすめ。オーツミルクを使ったラテメニューもある。豆も100グラム、200グラム単位で販売。

マスターが丁寧に淹れるようすは、まるでコーヒーショータイム。

購入したSきっぷは、きっと見慣れなかったのでしょう。松山駅の改札で、きっぷを見せると若い女性駅員さんは、しばらくじーっときっぷを見つめ、「はい、どうぞ」と通してくれた。券売機では販売していない紙のきっぷはやはりものめずらしいようで、車内改札では男性の若い車掌さんが「このきっぷは!ああ、近永駅で購入したんですね」とにっこり声をかけてくれました。おお、さすが。知っている人は知っている。今回、私が購入したSきっぷは、近永駅で販売している100枚綴りのSきっぷの最後の一枚でしたので、通し番号が「100」と書かれていました。きっぷへの収集に燃える鉄道ファンを「きっぷ鉄」と申しますが、きっとこれはマニアックなきっぷ。乗車した旅の記憶を呼び起こす貴重なアイテムであることにはまちがいなく、デジタル化が進む中、私も旅の記念にきっぷはとっておくタイプです。ゆえにこのSきっぷを見るたびに、松山駅から徒歩1分圏内の楽しかった3時間ぽっちりの日帰り旅行を思い出しては、その記憶を反芻して楽しむのであります。

無事、宇和島駅に到着。ありがとうSきっぷ!!

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