肉、肉、肉・・・。
コロナ禍で落ち込んだ経済を活気づけるべく、肉を食らおう!!
そう、予土線沿線には、焼肉店がいっぱいあるじゃないか・・という理由で、
前回好評だった「コロッケ女子旅」続いて、「やきにく男子旅」を実行した。
3月のある日のこと。暖冬だと安心しきっていたわたしを襲ったのは、冷たい北風とみぞれが吹き付ける悪天候だった。厚手のコートはもうタンスの奥にしまい込んだというのに、なんという寒さだ。凍えながら宇和島駅を早朝6時ちょうどに出発する「新幹線」こと「鉄道ホビートレイン」に乗り込んだ。旅の目的は「やきにく」である。予土線沿線に焼肉店が多いことは、うすうす気づいていたけれど、「コロッケもいいけど、やっぱり焼き肉食べたくないですか」と協議会に提案したものの、コロナ禍で実現できず、ついに3年越しにかなったのである。肉のことばかり頭に浮かべながら、車内も車窓もろくに楽しまずにうっかり眠りこけて到着したのは終点、窪川駅だった。
四万十町役場のロビーにある予土線ジオラマ。
国鉄時代の車両もあるよ!
窪川駅に到着したのが午前8時すぎ。肉を食べるには早すぎる!しかも集合時間は、10時半。どうしたものかと待っていたら、協議会のアドバイザーであり、この旅のカメラマンを務める坪内政美さんがやってきた。「おはよう!」と元気いっぱいである。50近い坪内さんだが、驚異的な行動力でなんとこの日は北陸新幹線開業の取材を終えて、福井から駆けつけたという。「どっかコーヒーでも飲みに行きましょうや~」とすぐに安楽の地を求める私の提案をそっちのけに、「さ、ジオラマの掃除でもするか」と駅隣の四万十町役場に常設している予土線ジオラマのケースを取り外し、鉄道模型を一つずつ磨き始めたではないか。麺棒をぬらし、線路も磨く。窪川駅をモデルにしたこのジオラマは、役場の入り口に展示していて、電源ボタンを押せば予土線を走るあの車両たちがNゲージで再現されている。坪内さんは定期的にこのジオラマを点検していて、いついかなるときも鉄道を愛するちびっこがボタンを押して走り出すNゲージを楽しめるように手入れを欠かさないのだ。
しかし、私は寒い。腹が減った。ちびっこのためとはいえ、線路を磨く私の頭の中にはもう肉のことしかないのだ。早く肉を食べたい。やきにく男子よ、どこにいる・・。
ジオラマの点検を1時間ほどしたのち、坪内さんをようやく近所の純喫茶へ連れ込むことに成功した。喫茶「淳」は、昭和39年創業でツタに覆われた外観からもその歴史を感じる。ひとたび店内に入ると、コチコチと時計の音が響くのみ。焙煎されたコーヒー豆の香りに包まれ、私はサンドイッチを坪内さんはホットケーキをブレンドコーヒーとともにオーダーした。昭和大好き坪内さんは、店内をキョロキョロ見渡して、昔のフェリーの時刻表を見つけては「こりゃ、お宝や」と大騒ぎ。本当に時が止まっているかのような店内は、椅子もテーブルもシュガーポットも壁のチラシもなにもかも昭和のままなのだ。食べるより先にシャッターを切っている坪内さんである。
うっかりのんびり過ごしていたら待ち合わせの時間である。そうでしょう、サンドイッチも絶品でしたが、私はもう肉を食べたくてこの旅に来てるのですよ。窪川駅では、高知県職員の小林さんが待っていた。「はじめまして」とごあいさつ。聞けば、いの町にお住まいで特急でやってきたものの、時間があまってしまい、歩いて1分の名店「水口てんぷら店」でコロッケといも天をつまんだと言うではないか。焼き肉を前にして、空腹に耐えられなかった男子がここにいた。そして、もう一人の肉男子が列車の発車時間ぎりぎりに到着。四万十町役場職員の久保田さんだ。ようやく肉へ向けての本格的な旅の始まりだ。
ふかふかのホットケーキにバターが溶ける。
寒さを忘れる甘みと温かさよ!
これぞ、わが理想のサンドイッチモーニングセット。
レタスシャキシャキです。
懐かしい「さんふらわあ」のパンフレットを
店内で発見!!
「風流喫茶 淳」
電話 0880-22-0080
営業時間 9:00~18:00(火曜定休)
創業して60年というザ・純喫茶。落ち着いた店内で、マスターが丁寧に淹れてくれる至極の一杯を味わうことができる。コーヒーの香りに包まれてしばし時を忘れてしまうほど。
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蔦に隠れて見逃すところだった。なるほど、こだわりの一杯いただきました。
「新幹線」でいざ、やきにく!!それにしても、さ、寒い~~
10時43分、列車は「鉄道ホビートレイン」だ。いわゆる団子鼻は、進行方向反対となるため、この時間は【新幹線の逆走】という予土線珍百景の一つで出発していく。なんと車内は、ほぼ満席。どこが赤字路線なんだといわんばかりのにぎわいだった。そのため、3人そろってすわることができず、私たちはぽつんと1人ずつ座っていた。ふと隣を見ると、男の子(推定5歳)とお母さんが仲良く鉄道の話をしているので、「どちらから来られたんですか?」と声をかけてみた。すると「香川県からです。どうしてもこの【新幹線】に乗りたいって子どもが言うもんですから」と。おお、わざわざ予土線までやってきたという本物の鉄道ファンではないか。「この列車、実は本物の0系新幹線の座席があったり、警笛も0系新幹線と同じ音なんですよ」とちょっぴり知った風なことを教えてあげると、男の子は「ええ!!すごい」と大興奮。川奥信号場で列車が行き違いのため停車した。すると、運転士からマイクパフォーマンス(アナウンスともいう)が。「ただいま停車中の場所は、川奥信号場であります。予土線と中村線の分岐点であり、車窓下にはループ場になった中村線の線路を見ることができます」とまるで観光ガイドのようなはからい。丁寧な説明をしてくれた。ここでも親子連れや鉄道ファンとおぼしき人たちが一斉に列車の前方まで進み、カメラで写真を撮り始めた。
まさに予土線珍百景「新幹線の逆走」の図!
仲良くなった男の子もいっしょに。
写真だと逆走に気づかないかな??
鉄橋を渡りながら、車窓に坪内さんを
見つけて手を振る3人。「撮れてるかな?」
「まちあるき入場券」の中吉を引き当てた!
近所の商店街で100円または200円引きの
特典クーポン付きなのがうれしい!
列車は土佐大正駅に到着。香川県からの親子連れはここで折り返すという。手を振ってお別れだ。また予土線に乗りに来てね!26分間停車するので、ここでリニューアル中の駅をちょっとだけ探検してみた。(※写真のキャプションでガチャなど紹介)
そして、車窓にぐんぐん近づいてくる四万十川。いよいよ目的地が近い。沈下橋が見えるところでは徐行運転するなど、運転士さんのテクニカルなサービスも続き、ついに江川崎駅に到着した。雨風はまだ収まらず、強風の中、出迎えてくれた肉男子が2人。四万十市役所職員の山脇さんと林さんだ。よろしくお願いします。早くお肉を食べに連れて行ってください。
土佐大正駅の通路が大変身。
むき出しのコンクリートから温かみのある木材になってるう!
林さん(左)と山脇さん(右)が寒い中、
歓迎ボードで出迎えてくれた~
全員そろったので記念撮影!!
さっそく、店内でお肉を物色する。全員、本気の目をしてますな。
う、う、う、うまそうなお肉が至る所に~。
こちらはブロックのお肉たち!!
歩いて10分で、「横山精肉店」に到着。スーパーではないか。ひとたび店内に入り、奥に見えるのは、お肉の美しいショーケース!!ああ、やっとお肉にたどり着いた。やきにく男子たちは、こぞってその美しい肉のとりこになった。思い切って肉を選ぶべし!!!
横山精肉店で取り扱っている「四万十牛」は、なんと独自のブランド牛で西土佐地区の牧場で育てられる。四万十川支流の美味しい水が育む肉質は絶品だと聞いている。男子たちは、「カルビ」「上」「特上」さらに「特選」の肉をそれぞれ200~300グラムずつ購入した。
これらも全部、焼き肉用にスライスしてくれる。
うっしっし。
ちゃっかり「鰹のたたき」も販売している。
誘惑に負けた小林さんがご購入!!
店では、買った肉をテラスで焼いて食べることができる。あいにくの悪天候でも、肉の魅力に比べれば、強風寒風なんのその、へっちゃらになるのである。コンロは1つ500円で貸し出してくれ、トングも皿も、焼き肉のタレも用意してくれる。予約しておけば、ほかほかの白いご飯もついてくる。もう野菜なんて食べなくてもいい、いざ肉を焼く。
手ぶらで行っても焼肉が楽しめる。
ふと予土線に乗って、ふと焼肉もありです!
こちらが今回のお肉と道具たち。
私たちはこれに一人ずつご飯もつけました。
「肉が光っている!!」とはしゃぐ男子たち。「脂が違う」「つやつやしている」「うまい」「うまい」とひたすら肉と白飯をかきこむ。横殴りの雪が降ってきたけど、目の前にある上質な脂の赤身肉は、ただただいい焼き色になっていく。箸が止まることはなく、あっという間に完食である。気がつけば、お茶を飲むことすら忘れていた・・。
つややかな脂がまぶしい!
どんな寒風にも耐えられるこのビジュアルよ、、、
私は赤身の肉が好き~!!
予算内に収まったのでカイノミを追加!
だれ一人飲み物を買わず(笑)ただひたすらに肉を焼くのみ、さすがやきにく男子。
「四万十牛本舗 横山精肉店」
電話 0880-52-1229
営業時間 8:00~19:00(正月3が日は休み)
年間100頭ほどしか出荷されないという四万十牛を仕入れていて、丸々一頭買いするため、カルビやロースのみならずホルモンなどの希少部位も並んでいる。外のテラス席は事前予約がオススメ。店内で一目惚れしたお肉をすぐさま食べられるという、肉好きにはたまらない最高のシチュエーション。
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ショーケースには、四万十牛のほかに四万十豚も並んでいる。まさにお肉のパラダイス!
満腹になったはずの男子たちだが、甘い物は別腹。精肉店の目の前にある道の駅でケーキを食べることになった。旬のイチゴがのったショートケーキやらチョコレートケーキやら。食後のスイーツは、男女問わずおいしいのである。
おやおや、ケーキにろうそくが一本ありますよ!
なんとこの日は山脇さんのお誕生日。
みんなでお祝いや~「おめでと~」
「ストローベイルSANKANYA」
電話 0880-31-6070
営業時間 10:00~17:00
定休日 3月~11月は無休、12月~2月は火曜日(祝日の場合は営業)
道の駅よって西土佐の中に店を構える地元のケーキ屋さん。小麦粉は国産、米粉は山間米の米粉を使い、季節限定のスイーツの開発は注目の的。テイクアウトもできるが、テラスで四万十紅茶ともとにアフタヌーンティーを楽しみたい。
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四万十の栗を使ったモンブランとともに季節ごとに変わるスムージーもあるよ!
四万十市の焼き肉だけでは満足できず、四万十町の焼き肉も食べたいということになり、急ぎ江川崎駅から窪川駅に移動することにした。もう満腹以外の何者でもない。肉男子は、腹をさすり列車の中で眠りこけるのみである。
窪川駅に到着してもまだ腹は減らない・・「ちょっと散歩でもしますか」とみんなで仲良く歩き始めた。ぶらぶら歩くと、焼き肉屋が3軒も寄り添っているではないか。次なる店はどこなのか、まだ開店前とはいえ全員無言で店の外観だけを物色していた。散歩といえど、肉が頭から離れない。とりあえずいったん肉のことは考えまいと、立ちよったのは「水車亭」。四万十町民のソウルフードともいえる「芋けんぴ」の専門店である。昭和41年創業で、大きな水車が目印だ。カリッと甘い芋けんぴを一口食べようものなら、肉なんて到底腹に入らない。ここの芋けんぴは、やみつきになる。だから今回は試食もしないで、お土産を買うことだけにしたようだ。全員が店の袋をぶら下げて、芋けんぴのCMについて語りながら散歩を続けた。「けんけんぴ」と沈下橋で跳ねる男の子のCMに「おお、見たことある~」と全員から声が上がり、真偽のほどはわからないがあれはみなが知っている芋けんぴのCMだった。
山脇さんとは、ここでお別れ。
再び、窪川駅を目指すのだ~
手にぶら下げているのは、水車亭の芋けんぴなのである。
本日2回目の焼き肉。
メニューを真剣に悩む、やきにく男子たちよ。
手慣れたもんだ!
さすが地元民、久保田さん。
17時。芋けんぴの誘惑に勝利した男子たちは、この日2軒目の焼肉店を訪れた。そう、「満州軒」である。散歩のおかげで、すっかり肉を入れる準備は整っていた。店はすでに満席で、水車亭と同じくらいこの店が地元に根付いていることがわかる。満州軒では、肉を注文すると同じ皿に大盛りの野菜が付いてくる。キャベツにもやしにニラである。昼間の野菜不足を補ってくれるなあ。昼は冷静さを失っていた男子たちも、満州軒の座席に座ると「やっぱり焼き肉にはしゅわしゅわっとしたアレが飲みたいですね」と言い始めた。はい、ノンアルコールビールで乾杯!!!赤身とホルモンの盛り合わせをどんどん焼く。鉄板で勢いよく焼かれていくお肉たち。その上にたっぷりの野菜をのせて、皿でふたをして蒸し焼き。野菜も肉も一緒に食べられるため罪悪感はゼロである。
肉を注文すると、もれなく野菜が付いてくる超健康なサービスが好き。
皿をかぶせて野菜は蒸し焼きにする。
そして満州軒と言えば「ジャンメン」である。窪川の人たちは、焼き肉を腹一杯食べたとしても、〆のジャンめんは必ず食べるという。男子の底力を見せるときである。「ジャンメン、一つ!」1つでいいんかーい、とつっこみたくなったが、実は1人前でもたっぷり量があるのだ。うっかり肉とともに白飯も注文していた男子たちは、この1つのジャンメンをかわいらしく分けっこして食べている。「俺、麺はなくていいけん、汁だけちょうだいや」と汁だけご飯の上にかけている男子たち。汁というには粘度があるいわゆる「ジャンメン」の「ジャン」の部分である。ホルモンとニラと卵がからみ合う「ジャン」が絶品なのである。
【ジャンメン】である。辛みより旨みが勝る!!
この下に隠れている麺も美味い!
撮影そっちのけ!?「わしにもジャンを分けてくれんか」
と坪内さんはそっと白飯を差し出すのである。
まんぷく、まんぷく。
1日2回のやきにくで心も体もぽかぽかになったな~
「満洲軒」
電話 0880-22-0019
営業時間 11:00~21:30(オーダーストップ21:00)
定休日 日曜日
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牛タン、ロース、ハラミ、ホルモン、ハート、レバーを注文。
まだ日も暮れきらぬうちに、私たちは焼き肉の旅を終えた。
あの寒い春風はどこへいったのやら。
空はうっすらとオレンジ色に染まってるではないか。
予土線ダイヤに合わせて1日2軒の焼き肉をはしごした男子たち。
それぞれの感想を語ってもらった。
久保田さん
「普段は通勤で使うくらいだった予土線ですが、こうやって行くと意外な発見がありました。便の少なさはネックですが、夜もう1本くらいダイヤを増やしてもらえれば、飲み会とかに使えるし、焼き肉はしご旅もまたやりたいですね」
小林さん
「自分は県庁で働いてますが、地方のローカルな感じに出会えたのが楽しかったですね。不便だからこそ、沿線のコンテンツを楽しもうという気持ちが高まるというか。線としてつながるのが鉄道だからこそ、数字には表れない魅力があるのかなと思いました」
林さん
「僕は西土佐で働いていますが、予土線に乗って愛媛方面に行って食べに行くことはあっても窪川には来たことなかったですね。こんなに駅近くの徒歩圏内にいい店があるのも知れてよかったです。平日は学生の通学の路線というかんじですが、こうして大人が楽しんで乗るのもいいですね」
観光客を呼び込むのもいいけれど、実は地元の人たちがその魅力をあまり知らないというのが現実のようだ。肉を食べると、脳内ではしあわせを感じるというセロトニンやらドーパミンやらが出るらしい。男子たちの肉をほおばるあの幸せそうな顔を見れば、それはもう納得なのである。