おめでとう!予土線45歳!おもいっきり笑った一日でした。
2019年11月4日、ついにこの日がやってきました!
予土線全線開通45周年記念イベント列車の運行日。予土線を走る3兄弟こと「鉄道ホビートレイン」、「海洋堂かっぱうようよ号」、「しまんトロッコ」を連結させた特別列車で、年に一度運行することになっているが、ことしはなんと1974年に全線開通した予土線の特別記念列車として運行することになったのです。
予土線は、JR四国の中でも100円の利益を得るのに1100円以上の費用がかかるという赤字路線だと公表されたことから、廃線を危ぶむ声も聞こえています。しかし、沿線の自治体や住民をはじめ、JR四国ほかならず、予土線の存続を願うばかりなのであります。その情熱を感じることになった記念イベントについて振り返ります。
盛り上がりすぎて、多少の遅延も発生しました!
(撮影・山下文子)
ファンからも欲しいという声もあった特製ポスター
今回、愛媛県と高知県の利用促進対策協議会は、予土線45周年記念として、アドバイザーの鉄道カメラマン坪内政美さんとともに、いつもより大規模なイベントを仕掛けることにしました。「利用促進」というくらいですから、なんといっても『予土線に来てもらう、乗ってもらう』というのが目的です。この記念イベントの列車運行に先駆けて、11月3日には、鉄道芸人でおなじみのダーリンハニーの吉川正洋さん、鉄旅タレントの木村裕子さんを迎え、「予土線フォーラム」が開かれました。MCを務めたのは、坪内さんが出演中のラジオのパーソナリティを務めているNHK松山放送局の岡田留美キャスターです。宇和島市で開かれたこのフォーラムには、会場の250席が満員になり、全国の鉄道を乗り尽くしている吉川さんと木村さんが、地元の人でも気がつかないほどの予土線の「列車」、「人」、「食」、「出会い」など数々の魅力を伝えてくれました。中でも一番盛り上がったのは、JR職員や沿線自治体のトップなどがゲストや坪内さんとの「予土線のこれから」についてというテーマでした。みなさん、それぞれ「新幹線があるのだから、ドクターイエローの新幹線も作ってほしい」とか「景色がいいんだから、列車に乗りながら露天風呂に入りたい」とか妄想が広がっていました。沿線住民の足としてだけではなく、観光路線や地元住民の憩いのツールとして予土線を活用していくのも一つの利用促進策なのではないかと感じました。
エントランスでは沿線保育園の
子どもたちが描いた力作が並ぶ。
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記念入場券は記念切符スタイル。
ちゃんと改札もありました。 -
参加者のみにプレゼントされた記念品も
凝ったものばかり。
愛媛・高知でもちまき合戦!お祝い列車に乗ったよ。
その翌日の特別列車には、なんと宇和島駅は列車の運行前から大勢の人でにぎわっていました。なんと300人を超える客が乗り込んだのです。その混雑ぶりといったら、4両つないでいる車内に立ち席が出るほどでした。予土線で座れないなんてこと、まずないですよ!午前10時。前日のフォーラムで予土線愛を語ってくれたゲストの吉川さんも木村さんも、MCの岡田キャスターも稲澤宇和島駅長と一緒に出発進行の合図!列車を見送りました。そして、北宇和島~務田の急勾配を列車がのんびりと上っている間に、坪内さんの車で先回りして、務田駅からは3人もサプライズで乗り込みました。
宇和島駅を出発するお祝い列車「しあわせのもちまき号」 (撮影・西本篤司)
稲澤宇和島駅長ともに出発の合図!
行ってらっしゃい~
約330人を乗せて勾配を登るお祝い列車。
(北宇和島~務田)
3重連とも呼ばれるこの特別列車では、車内でゲストから直接記念乗車証が一人一人に手渡されていました。その記念乗車証がまたいいのです。この令和の時代に、昭和の時代を思い出させるホログラム仕様の乗車証です。はがきサイズで、傾けると連結した3兄弟の写真が2パターン浮き上がります。一つは愛媛県側の駅名が、もう一つは高知県側の駅名が書かれています。配ると、受け取ったお父さんが「わあ、いいね」といい、そのお子さんが「わあ、すごい」と感激していました。世代を超えて喜ばれるなんて!この日だけの限定とあって、きっと大切な思い出の品になりますね。
車内で配られた記念証は昔懐かしのホログラム仕様
見事に青空の下走るお祝い列車。(二名~大内)
(撮影・西本篤司)
おっと、忘れていました!この特別列車、「幸せのもちまき号」と名付けられております。なぜ「もちまき号」なのか。それはこの予土線沿線の特徴に由来しています。予土線沿線の自治体では、めでたいことがあってもなくても、イベントごとにはもちまきがつきもの。もちまきがあるとないとでは、その集客力が違います。そこに目を付けたのは、坪内さんでした。日常的に暮らしているわたしは気がつきませんでしたが、全国的に見てもこんなにもちまきに人が集まる地域は珍しいのだそうです。坪内さんは、企画会議の時に各沿線市町駅で、沿線対抗餅まき合戦をしたらどうかとか、河川敷に架かる鉄橋を渡るときに停車をして、窓のないトロッコ列車から、餅まきをしてはどうかとか、思いきったことを考えたりしていたようですが、安全運行を第一に考えて、もちまきは松丸駅と窪川駅の2か所で行われました。
車両には特別の愛称板やサイドボードが装着された。
午前10時57分。松丸駅に到着すると、松野町の太鼓集団「鬼城(きじょう)太鼓」がお出迎えです。どんどこどんどこ腹に響く太鼓の音で、乗客もゲストも駅舎の隣にある駐車場の広場へと誘導されます。すると、どうでしょう。広場となる会場には袋を持った地元の人やら観光客やら予想外の大勢の人!人!人!これでもかと、紅白のつきたてのおもちがたっぷり用意されています。「鬼城太鼓」の演奏が終わると、いよいよもちまき開始!太鼓のリズムにのって、吉川さんも、木村さんも、岡田キャスターも見事なバラマキぶりを披露。特に岡田キャスターは、野球ファンの吉川さんが感心するほどの美しい投球フォームで、遠くにいる人たちにもしっかりもちが届いていました。わずか19分間の停車時間でしたが、そのにぎわいといったら。秋空の下、もちをまく方も、取る方も、うっすらと赤ら顔。汗をかくほどの熱気でした。
再び、お祝い列車は走り出し、愛媛県から高知県に入ると、車窓には四万十川や沈下橋など予土線ならではの景色が広がっています。空は晴れてさわやか。この景色と列車をカメラに収めようと、沿線には大勢の撮り鉄さんや住民が手を振って歓迎していました。その歓迎ぶりにゲストたちも驚いた様子です。
「これだけ祝ってくれる人がいるなんて。今日が特別な日なんだというのがよくわかりますね」と吉川さん。
「すごい歓迎ぶりでうれしくなりますね」と木村さん。乗っている方も見ている方も、笑顔!!お祝いムードってすごい。沿線の人たちにもちゃんと手を振りかえしてくれていましたよ。知らない人同士がこの日ばかりは予土線でつながったような温かい気持ちになりました。なんと3時間18分かけて、お祝い列車はいよいよ窪川駅に到着しました。
ホームがステージでもちまき大会。
盛り上がりました。
沿線もこの人だかり。みんなで御手振り。
(江川崎~半家)
JR四国マスコット゛すまいるえきちゃん゛
も行ってらっしゃい~
車内では、大じゃんけん大会が、この盛り上がりよう。
(撮影・川田英登)
窪川駅は、四万十町役場に直結しているといっても過言ではありません。跨線橋のように東西の庁舎を結ぶ通路からは、窪川駅を出入りする列車はすべて撮影できる撮り鉄スポットでもあります。この通路につながる階段で、本日2回目のもちまきです。車内じゃんけん大会では、予土線グッズの他に゛ゲストと一緒にもちまきをする権利゛も景品の一つになっていたようで、優勝した親子も一緒にもちをまきました。このとき、坪内さんも密かに参加したようで、あまりのヘタクソなもちまきぶりに、どうやら庁舎の窓枠に餅をひっかけていたそうじゃないですか。
四万十町が用意したお餅には「祝」の文字が。
庁舎2階から豪快にもちまき。これはたのしい。
さて、帰りは運行形態の関係から、この3兄弟が別編成となり宇和島に折り返します。しまんトロッコを切り離し、代わりに四国カラーのキハ32を連結させます。そう、「キハ32 夢の三重連4825D」と名付けた“普通列車”の運行です。「鉄道ホビートレイン」も「かっぱうようよ号」も「キハ32」という気動車です。仕様の異なる3両のキハ32が連結して走るなんて、異例の組み合わせ、まさにマニアック!こちらも1日限りの特別編成ですが、ダイヤは通常どおり普通乗車券のみで乗車できます。今回のイベント列車のいいところは、きっとこの普通乗車券のみで乗れるというプロデュースした坪内さんが終始こだわっていた設定。予約制ではなく、「だれでも乗れる」というところに魅力発信の本質的なものを感じました。今日は車じゃなくて、列車に乗ってみようかしら、といつもと違う景色を味わう機会になった人も多かったようです。車社会の中、鉄道の需要が増えることは見込めないかもしれませんが、鉄道ならば、お酒も飲めるし、同じ車両に乗り合わせた人びととの交流もあります。1人でぼんやり景色を眺めながらも良し、友達や家族とその絶景を分かち合うのも良し、思いがけない土地の食や文化にも出会えるかもしれません。この列車の出発は午後3時1分でしたが、乗客のみなさんは折り返しまでの停車時間、どんな楽しみ方をしていたのでしょうか。窪川駅周辺には、列車が見える古民家カフェや地元のソウルフード芋けんぴの店もありますし、行き交う列車をカメラに収めるという時間もたっぷりでしたし、それぞれ思い思いの過ごし方を楽しんでいたかもしれませんね。
こちらにも特製の愛称板を装着された。
まったりした雰囲気の中、豪華な普通列車は宇和島へ
(撮影・西本篤司)
一方で、切り離した折り返しの「しまんトロッコ」は、トロッコ連結でもともと座席数が限られているため定員40人の旅行商品として販売されました。車内では、西土佐のおいしいケーキやもはや試飲では済まなかった地酒の試飲会もあり、開放的なトロッコ車両で秋風に吹かれながら、日が暮れる時間までこれまたのんびりと4時間かけて走ったのでした。
なんと4時間かけて走った
ツアー列車「よどせんサポーター号」
江川崎では、ストローベイルSANKANYAの
ケーキがふるまわれた。
近永では、「鬼」つく町「鬼北町」から
鬼王丸が奇襲?(撮影・川田英登)
鬼王丸は「キハクッキー」を
差し入れしてくれました。
宇和島に着いた時はもう真っ暗。
たのしかった~
予土線の運行については、いろいろな心配事が尽きませんが、多くの人を笑顔にしたこのイベント列車に乗ってみて、やはり鉄道の持っている人を引きつける力は、すごいなと感じずにはいられませんでした。初めて乗った人も常連さんも、地元の人も観光客も、予土線を楽しんでいることはひしひしと伝わってきました。運営に携わった皆さま、おつかれさまでした。みんなの予土線がこれからもたくさんの人の笑顔を乗せて走り続けてくれることを願います。まだ乗ったことがないあなた、ぜひ一度乗りに来てくださいね!!