2018.03.01 UP

「手を上げて止まってくれるのは、タクシーだけじゃなかった」編

かれこれ20年ほど前の、わたしと予土線のおはなし。

当時、うら若き女子高生だったわたしは、毎朝、予土線に乗って宇和島市内の県立高校に通っていた。1時間目に間に合う列車は、午前7時24分に近永駅を出発する普通列車。普段は1両編成でトコトコ走るワンマン列車が、この時間だけは車掌付きの3両編成。西土佐、松野、広見、三間と、沿線から学生が次々に乗り込んでは、満員になるほどのまさに通学ラッシュアワーであった。

これに乗り遅れると、1時間目の授業は完全にアウト。なんとしても7時24分には、近永駅からこの列車に乗らなければならなかったのだが、ねぼすけだったわたしは、余裕を持って駅で列車を待ったことなど一度もない。1分1秒でも長くぎりぎりまで布団に潜り込んで、朝ご飯もそこそこに自転車をかっ飛ばし、列車とほぼ同時に駅に到着。何度も乗り遅れそうになったものだ。ホームで、同級生たちと「おはよう」などとさわやかな朝のあいさつをかわすことなどなく、ぼさぼさの頭で息を切らしながらドタバタと乗り込んでいた。

ところが、完全に間に合わず、列車が走り出してしまうことも一度や二度ではなかった。カンカンカンと鳴り響く踏切の音。自転車に乗ったまま前方を見ると、ゆっくりと駅を出て行く列車。運転士さんと目が合う。わたしは腕がちぎれそうなほど勢いよく、思いっきり手を伸ばして、激しく意思表示。「乗ります~!!」。その瞬間、キキーッというブレーキ音がして、列車は止まった。「こりゃあ!列車止めたら罰金ぞ~」と叫ぶ車掌さん。わたしは、線路脇のフェンスに自転車をくくりつけ、踏切をくぐる。すると、車掌さん、怒鳴り声とは裏腹に優しい表情で乗務員室のドアを開けてくれ、そこから速やかに乗車である。「すみません、すみません、ありがとうございます」と腰をかがめながら、わたしは車内へ。他の学生たちにじろじろと目線を向けられるものの、乗り込みさえすればこっちのもんだ。こそこそと座席を確保すると、二度寝である。安堵感に包まれ、まるで何事もなかったかのように、そのまま終点の宇和島駅まですやすや・・。

よくよく考えると、定時発車の列車を、手を上げてタクシーのように止めるなど、現代においてはきっと御法度である。いや、当時から罰金払えと車掌さんがいうくらいだから、本当は大ごとなのだ。わたしがきちんと1時間目から授業を受けられたのも、この心優しい人情味のあふれる運転士さんや車掌さんのおかげだったと、振り返ってしみじみ思う。

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