2018.03.27 UP

「寝るな!寝たら死ぬぞ!若者よ」編

宇和島駅から近永駅まで35分。以前にも書いたように、うら若き高校生だったわたしは、この区間を毎日通学で利用していた。朝は、ネボスケだったが一転して昼間は元気いっぱい学生らしく、少々居眠りをしながら勉学に励み、しなくてもいいのに日が暮れるまで部活に励んでいた。

 当時、19時台に宇和島を出る列車は3両編成で、窪川まで走っていたことから、通常はワンマンの1両編成ではなく、多くの学生がこの列車を利用していた。ゆったり座って乗ることができたのだ。

かくいう私ももちろんこの列車を利用して宇和島から近永へ帰っていたわけだが、いかんせん心地よい揺れに寝てしまうことがよくあった。近永駅までの35分。しかし、深い眠りについたら最後、35分などとっくに過ぎて、知らぬ間に県境をこえてしまったのだ。気がついたのは、いつもの車掌さん。近永駅で降りていたはずの私を見かけ、起こしてくれたのだが、なんとそこは江川崎駅。オーノー!!慌てて鞄を抱えて列車から飛び降りた。

もうすぐ秋になろうかという夏の終わりの江川崎駅。ときどき電灯にぶつかる虫の音以外は、シーンと静まりかえった無人駅。列車が来る気配など微塵もない。なんてことだ、お腹はへるし、宿題は山ほどあるし、うちに何時になったら帰れるのか。駅舎の灯りは無情にも、蛾と私だけをやさしく照らしていた。

途方もなく待つというのは、非常に長く感じるもので、まだ半袖だったわたしの肌に当たる風さえも寒々しくなってきた。このまま列車が来なかったらどうしよう、メシも食わずにここにいたら朝が来るまでに凍えて死んでしまう、電灯にぶつかった虫みたいにこの待合室にコロンと丸くなって転がっているのを発見されるのだろうか。電話をかける10円玉すらないのに、なんで江川崎駅で降りたのだ。もう居眠りなんかするからこんなことになったんだ、なんで寝ちゃうんだわたし!!・・・なんてことばかり考えて、駅にある時刻表を見ることもなく、ただただネガティブな発想だけが頭の中をぐるぐる回るのだ。

寝たら死ぬ、そう思ってかたくなに目を見開いて駅のベンチでじっとすること1時間。折り返しの列車がやってきた。その前照灯の輝きといったら!暗闇に一筋に伸びるヘッドライトがこんなにも暖かいと思ったのは、このときが初めてだったと思う。

もう寝ないぞ!近永駅まで寝るもんか!と心に強く決め、ぱちくりと目を開け、眠りを誘う予土線の揺れと戦いながら、帰り着いたのは言うまでもない。

一覧へ