2018.05.01 UP

「予土線沿線に潜む古代生物にハマッタ!」

愛媛県側の沿線は4月半ばなのに、なんと田植えの真っ最中である。
予土線の線路は、そんな田んぼの中を貫いているため、右を向いても左を向いても田んぼ、たんぼ、タンボである。
何を隠そう、肥沃な田園地帯であるため、いいコメができるのだ。
高知県側の四万十川をのぞむ車窓も、それはそれはゴージャスな景色が広がっているものの、5月も半ばを過ぎると愛媛県側には車窓一面に、新緑と青田の織り成すハーモニーが広がっていて、
一両の列車は、田んぼの中をガタンゴトンとのどかに走り抜けていく。

しかし、油断めさるな。
この予土線沿線の田んぼには、2億年前からその姿を変えていない古代生物が生息しているのである。その姿は、オタマジャクシの登場と時を同じくして、ちょうどこれからコメが育つ水田に現れるのだ。
その名も「カブトエビ」。なあんだ、それかと思う人もいれば、なんじゃそりゃと思う人もいると思う。わたしも゛なんじゃそりゃ゛の人だった。このカブトエビ、体長は3センチほど。オタマジャクシよりも少し頭が大きく、あの生きた化石ともいわれるカブトガニに似ている。
昨年、ロケ中に鉄道カメラマンに教えてもらってからというもの、水田でその姿を見つけては捕まえていたが、張り切りすぎて、つい手が届かないところへスーッと逃げてしまうのを捕獲しようとして田んぼの畝に乗っけていた足が滑り、大惨事に。泥んこになっても、すっかりその奇妙な生き物の虜である。

ある日、いい歳をしたおばさんが洗面器にいっぱい捕まえて、しばらく職場で観察してみることにした。
オタマジャクシもいっしょに捕まえてしまったが、まあ成長したら、カエルになるくらいだからどうってことはない。
カブトエビをひっくり返すと、まるでエビのような無数の脚のようなものがワシャワシャせわしなく動いている。その動きで水の中を動き回っているのだ。
ふと見ると、ぷかぷか浮いているカブトエビが。・・あ、脱皮してる。まるでカニのようにそのままの形で脱皮していたのだ。
一昼夜が過ぎ、洗面器に変化が。数を数えてみると、明らかに数が少ない。カエルになることを期待していたオタマジャクシもいないのだ。・・そう、カブトエビは雑食の肉食系古代生物だったのだ。
ひょえ~。えさをやらないで、観察だけしていた私もうかつだったが、この洗面器の中では、真っ暗になった夜のさなかに、それはもう「食うか食われるか」の熾烈な生存競争が繰り広げられていたのだ。
オタマジャクシにもカエルになるという夢をかなえてやることができず、田んぼでのうのうと生きていくはずだった何匹かのカブトエビにも気の毒なことをした。私はそのまま、洗面器を持って、カブトエビをいるべき場所に返してやった。

そうなのだ。この古代生物カブトエビの姿を見られるのは、わずか2週間。
卵の状態で何年も土の中で生き続け、あるとき、水や土壌のきれいな生きやすい環境になると孵化して子孫を残すのだ。
2億年ずっとその姿のまま、たった2週間で次の世代へと命をつないでいるのだ。
その時間を考えると途方もなく、その命のドラマが沿線の田んぼでは繰り広げられているかと思うと、人間なんてちっぽけだなあ。くよくよしないで生きていこうなんてことまで思ってしまうのであった。

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