2019.01.17 UP

「津村さんのきんぎょ」

予土線の一押しスポットに水族館「おさかな館」がある。松丸駅から歩いて5分。四万十川流域に生息する魚や国の天然記念物のオオサンショウウオや南米のフンボルトペンギンなど多種多様な生き物もいるし、コツメカワウソにえさやりもできちゃうし、ニホンウナギにもさわれちゃうし、体長1メートルを超える大型魚の水槽はまるで水の中のトンネルみたいだし、なんてったって予土線に乗っていけちゃうという鉄道と生き物好きにはおすすめの水族館だ。

いわずも生き物大好きな私にとって、おさかな館には公私ともにお世話になっている。取材に、プライベートにと本当に足繁く通っているのだが、去年(2018年)2月、当時おさかな館の館長だった津村英志さんが亡くなった。津村さんは、オープン当時から専門家として関わっていて、亡くなるその日まで館長を務めていた。来館するたびに、津村さんとあらゆる生き物の話で盛り上がった。中でも、話題が金魚になると津村さんは、めがねの奥の瞳をキラキラさせながら「ちょっとみせてやる!」と言っては、バックヤードに行き、らんちゅうの赤ちゃんなど、かわいらしい金魚たちをこっそり見せてくれていた。そう、無類の金魚好きだったのだ。この金魚たちを通じて、わたしは何度も津村さんの生き様を感じている。

今から8年前の2011年に起きた東日本大震災で、福島県いわき市の水族館「アクアマリンふくしま」が被災した。館内の水槽が割れ、多くの生き物を失ってしまったことを知った津村さんは、育てていた金魚を復興のにぎわいにしてほしいとアクアマリンふくしまへ寄贈したのだ。遠く離れた被災地へ「ひとときの癒やし、希望の光の一助になってほしい」と津村さんは思いを寄せていた。その翌年、復興したアクアマリンふくしまからは、金色に輝く「津軽錦」や尾びれの優美な「庄内金魚」など東北地方で生まれた貴重な金魚たちがお礼として届けられた。いまでもこの金魚たちはおさかな館の水槽で元気に泳ぎ回っている。

アクアマリンふくしまとの友情は、今も続いている。それが「ナメダンゴ」である。ナメダンゴは北の冷たい海にしか生息しないカサゴの仲間。直径5センチほどの丸っこい体で小さな小さなひれを動かしながら泳ぐ姿がなんともかわいらしい魚である。金魚ではないが、津村さんのお気に入りの魚だ。それを知っていたアクアマリンふくしまは、2度にわたりナメダンゴをおさかな館に持ってきてくれた。1度目は、津村さんが病気と闘っていたころ、そして2度目は西日本豪雨のあとだ。そのどちらも「元気づけたい」という福島からのあたたかい思いがぎゅっと詰まっていた。

そして、ことし。わたしは広島県の宮島にある厳島神社へ初詣に出かけた。お参りの後、ふと神社のそばにある宮島水族館を訪れた。館内を巡りながら、新春特別展「きんぎょ会」と題された展示室に入ると、その一角に『津村さんのきんぎょ』と名付けられたコーナーがあった。1メートル幅の水槽に泳いでいたのは、生前津村さんが大切に育てていた金魚たちだ。ひらひら尾びれの「大阪らんちゅう」や、ぷくぷく頭の「四国オランダ」など優美に泳ぐ金魚たちがそこにいた。思いがけない出会いに涙が出た。津村さんが育てた金魚への愛、しいては金魚を愛した津村さんへの愛を感じた。宮島水族館は、授かった命のリレーをしっかりと繋いでいた。「きれいだね」「かわいいね」と訪れた人たちは次々と金魚に心を奪われていく。そして、水槽横のパネルに書かれた津村さんの紹介文を読み上げながら、その金魚を育てた人へも心を寄せる。その光景こそ津村さんの生きた証。金魚を眺めている人たちを見ながら、津村さんも天国でほほえんでいるといいなと思った。


 

■四万十川学習センターおさかな館
〒798-2102 愛媛県北宇和郡松野町大字延野々1510−1 虹の森公園内
TEL:0895-20-5006
入館料:高校生以上 900円 / 小・中学生  400円 / 幼児(三歳以上) 200円
※団体料金20名以上1割引
※障害者割引:各種手帳保持者半額(1級・A1記載者:付添い1名半額)
営業時間: 10時~17時
定休日:水曜日

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