- 2025.12.16 UP
あなたは“人面犬”をご存じですか?
赤と緑のド派手な車両が予土線を通り過ぎていく。予土線3兄弟の次男こと「海洋堂ホビートレイン かっぱうようよ号」である。予土線沿線地域には、のどかな里山とともにかっぱ伝説が残っている。四万十川にはかっぱがすんでいる・・残念ながら私はまだ見たことがないけれど。
かっぱで思い出したのは、小学生の私のことだ。まだ、鬼北町(当時は広見町)に引っ越す前で、宇和島市内の小学校に通っていた頃、同級生たちの間で学校のプールのトイレには「花子さん」がいると大騒ぎになった。TVでも取り上げるくらい「花子さん」ブームになっていたが、それだけではない。薄暗い下校中になると、人の顔をした犬、「人面犬」というものまでいるというではないか。
予土線普通列車として走っている海洋堂ホビートレイン「かっぱうようよ号」撮影・坪内政美
左右でデザインが違う。さて、カッパさんは何匹いるでしょう?撮影・坪内政美
かっぱうようよ号内部はこれまたかっぱだらけ! 撮影・坪内政美
「花子さん」には、プールのトイレに行かなければ出くわすことはないが、「人面犬」は通学路にいるという。なんということだ、おそろしすぎる。もはや絶対に一人で家に帰ることなんてできやしない。昼間の長い夏はまだいい。秋になり、冬がやってくると下校時間の夕方5時はもう暗い。子どもにとってはもう夜道である。暗くて不安な帰り道を私はどう乗り越えればいいというのか・・・。
まずは敵を知ることから始めようと、私は同級生たちに「人面犬」についての情報を集めることにした。どうやら人面犬は、そこまで大きな犬ではなく、ぱっと見ただけでは気づかないという。後ろを振り返ったとき、その顔が犬ではなく、人間の顔であるという。ただ、気をつけなければいけないのは、その「人面犬」のうんこは緑色ということがわかっていて、路上に緑色のうんこがあれば、近くにいるからくれぐれも出くわさないようにしなくてはいけないということだ。登下校中の道路には、犬のフンがしばしば転がっている。気をつけなければ。

当時、薄暗い夕方に犬を散歩させている人とよくすれ違っていた。しかし、どれもかわいらしい犬だったような気がするが、もしかしてその中にいたのかもしれない。よく思い出そうとしても犬の顔なぞ、はっきりと覚えていない。そもそももうすでに私は犬の顔をのぞき込む勇気など持ち合わせてなぞいなかったのだ。不安しかなかった。とにかく、帰り道に緑色のうんこがないことを祈るばかりだった。
私は下を向いて歩くようになった。緑色のうんこだけは見つけてはいけないのだ。あってはならないものなのに、見つからなければいいのに、私の気持ちはしだいに好奇心に駆られていた。「うんこが緑色っていったいどういううんこよ」と。恐怖心を凌駕して、見たことのないものへの憧れのようなものが募っていった。
ある日、私は体調が良くなかった。朝から元気がなく、なんとなく学校で1日を過ごし、しょぼくれて家路についた。どうやら熱っぽい。そのときである。急に便意をもよおし、家まで走って帰った。もう間に合わないのではないかと、ぎりぎりでパンツを脱いだ。つるっと出てきた安堵感とともに、そのうんこを見たとき、私は驚きのあまり言葉を失った。なんと自分のうんこが緑色だったのである。私は「人面犬」だったのか・・頭はパニックですぐさま母親に「私のうんこ緑色やった・・もう死ぬかもしれん」と絶望を述べた。ああ、短き人生よ。うんこをもらさなかった安心感よりも、死への恐怖と向き合わねばならないのか。
すると、母親はケラケラと笑い出し、「緑色のうんこもでるわ。死にゃせんわ」と軽くあしらわれた。人間も緑色のうんこって出るの??「人面犬」だけじゃないの??じゃあ、今までの私のうんこはなんだったの??少なくとも道に転がっていたうんこは、緑色のものなんて一個もなかったぞ!!!!当時の私は、いったい何にびびっていたのか、「人面犬」の緑色のうんこの話は何だったのか・・。
人間は食べたものでうんこの色は変わるのだとおとなになった今ならわかる。キムチを食べたら赤くなるし、ターメリックたっぷり食べると黄色くなるし、そう今日だって青汁を飲めば緑色じゃないか。そもそも赤ちゃんのうんこは、時に緑色がかっていると聞いたことがある。小学生の私は、そんなしょうもないことで心をかき乱し、日々過ごしていたのだ。未だに、路上で緑色のうんこは見たことがない。むしろ、「人面犬」を見たことがあるという人に会ってみたいとさえ思う。

(後日談)
この一連の話をおいっこ(小学生)とその友達にしたことがある。すると、「緑色のうんこが出た」というくだりのインパクトが強かったのだろうか、その友達から「あ、人面犬だ!!」と会うたびにからかわれている。

